第九章。

【洋館 一階主の間】

『オルゴール。

途切れ、途切れに聞こえる音色。
聞こえてるのかも分からぬ小さな音で。
ゆっくり、ゆっくりと鳴り響いている。
思い出の中で広がるその光景は、どこか懐かしげで。
何故か自分はそれを戒めている。
オルゴールに鎖が巻き付いているのが良い証拠だろう。
その鎖に巻かれたオルゴール。
暗く閉ざされた部屋の一室にあった。
部屋の中央に置かれたオルゴール。 』

『あの』夢の続きなのか・・・?
今俺が見てる世界は、現実・・・?
分からない。
わからない。
ワカラナイ。
俺は頭を掻き毟る。
何、もかも、が、変、だ。
・・・身体が冷たい。
・・・心が冷たい。
オトモ、ナニモナイセカイヘオチテユク―。
オルゴールの音が俺を縛る。
優しく―、冷たく―、一途に響く。
身体から生気が抜けるのが分かる。
まるで・・・人形や・・・鎧のように・・・。

第九章、終劇。

第八章。

冷たく・・・。
重たく・・・。
その先さえ読ませぬ、鉄の扉。
俺は無意識に息を止めていた。

【洋館 一階主の間】

オルゴール。
鬼気迫る鉄の扉とは正反対。
ただ、無機質な部屋の真ん中に。
丸机の上に。
タッタ、イチダイノ、オルゴール。

第八章、終劇。

第七章。

俺は時々振り返りながら歩く。
先程の鎧が、後ろから走ってくるような気がして。
数歩歩くと、後ろを確認し。
聞こえる音に、耳を済ませる。
いつの間にか俺は、忍び足になり。
感覚を必要以上に、研ぎ澄ませていた。
そして俺は。
また目の前に出たドアを開く。

【洋館 一階踊り場】
俺は気味の悪い廊下を、やっとの思いで抜けた。
そこはどうやら踊り場のようだ。
上を見る。
吹き抜けになっていて、その周りを螺旋階段が取り巻く。
意識が遠くなるほどに屋根が遠い。
シャンデリアが見えるようだが、光が灯っていない。
床は少し埃っぽい。
どうやらこの踊り場が屋敷の中央らしい。
他の通路に続いているだろう、扉が幾つも見える。
その時だ。
・・・『聞こえる』。
『オルゴール』の音が『聞こえる』。
『頭の』中『で、確かに』聞こえる。
視界が歪み、頭が痛い。
「うわ・・・」
俺はフラつきつつ、壁にもたれかかる。
「記憶が」

「記録が」

「目覚め」

トまラナい頭痛が痛い痛い痛い痛い。
俺は呼ばれるように。
気付くと一枚の鉄の扉の前にいた。

第七章、終劇。

第六章。

(ここからは同一の話となります)

【洋館 一階鎧の通路】

俺は【鏡の迷宮】を抜けて、通路を行く。
相変わらず薄暗い。
が、先程いた【大廊下】よりは幾分かマシである。
あの廊下は窓が1、2つしか無かったのに比べ、この通路は5個はある。
その窓から入ってくる月明かりが、辛うじて照らしている状態だ。
ボンヤリと効かぬ視界に、俺は四苦八苦している。
さっきも、通路に飾ってあるであろう置物に足をぶつけた所だった。
「クソ・・・」
俺は言い知れない恐怖に襲われている。
人間は、五感の一つでも束縛されると不安を覚える。
まぁ、中には「第六感」と呼ばれる者で補う人間もいるようだが。
勿論、俺にはそんな物など、無い。
だからこそ、今ゆっくりと進んでいる。
手探りで、ゆっくりと。

その時、目の前にボンヤリと浮かぶ人影。
『やけにがっしりとしている』。
『人間ではない』。
『なのに、それは視線を俺へと向けている』。
直感。
第六感とまでは言わない。
が、そう称するに相応しい人間の潜在能力だろう。
恐る恐る近付く。
近付くにつれ、はっきりとした姿が分かる。
「・・・鎧!?」
中世の鎧だ。
甲冑、と言い表した方が妥当なのだろうか。
月明かりを受け、奇妙に光っている。
その不気味さ。
俺は、僅かなその兜の隙間から視線を感じていたのだ。
冷たく、射る様な視線。
俺は思わず、その甲冑から目を逸らした。
俺の体が恐怖し、畏怖し、拒否したのだ。
俺は目を背けたまま、その前を通り過ぎる。
ふと聞こえる、甲冑の息遣いの幻聴。
ふと感じる、甲冑の動く姿の幻覚。
『音を忘れるな・・・』
聞こえたかも、聞こえなかったかも分からない甲冑の声。
俺は逃げるように、甲冑の前から姿を消した。

第六章、終劇。

第五章。

【洋館 一階大廊下】

俺は通路の奥へ進む。
絨毯の廊下。
一歩一歩踏みしめる度、足の裏に優しく反発する。
が、今の俺にはそれは気休め程度の慰めにしかならない。
今、また扉が俺の前にある。
"この先"。
恐らく想像もしていない物がある。
俺の全身がそう言う様に、弱く硬直しているのが分かる。
無意識に手が汗ばむ。
俺はその手で、"この先"のドアノブを握り、ゆっくりと押し開いた。

(以前に右を選んだ方)
ドアは抵抗も無く開いた。
その反発の無さに、少し俺はバランスを崩す。
―――何も無い?
安堵して、崩れた体勢を直し、顔を上げる。
「・・・ひッ・・・!!」
俺は声にならない声を上げた。
そこには。
全く。
自分と。
同じ。
人間が立っている。
「・・・!?」
緊張し切った手足が震える。
その異様な光景。
が、すぐに俺は落ち着きを取り戻せた。
鏡だ。
それも部屋一杯に張り巡らされた。
様々な方向に張り巡らされた鏡。
迷宮さえ思わせる。
良く見ると、鏡の自分の上に文字が彫られている。
「・・・鏡の迷宮【ミラーラビリンス】・・・?」
この部屋の名称だろうか?
・・・不可思議。
俺の全身全てが、この空間を嫌う。
「進もう・・・」
怖い。
が、進むしか道は無いだろう。
俺は迷宮へと身を投じた。

(以前に左を選んだ方)
「・・・何だコレは?」
俺はただ立ち尽くす。
そこは鏡。
鏡、鏡、鏡。
数え切れないほどの鏡が配置されている。
しかもどれもが、こちらを向いている。
全ての鏡に、驚く俺の顔が映し出されている。
「何だってこんな・・・ん・・・?!」
俺は見た。
その"一瞬の不可思議さ"を。
それは。
全く、同じ、自分、が、違う。
「・・・!?」
緊張し切った手足が震える。
その異様な光景。
"明らかに自分と違う行動を取っている"。
本来、対象物を隈なく、間違い無く映す筈の鏡の中で。
俺は、ただ立っている。
が、鏡の俺は手をこちらにかざし、俺の頭の上を見て何かを呟いている。
・・・不可思議。
俺の全身全てが、この空間を嫌う。
「進もう・・・」
怖い。
が、進むしか道は無いだろう。

ここは【鏡の迷宮】。
相対する者を映し出す世界。
この部屋を出た俺は、部屋がかざすその名称に悪寒さえ覚えたのだった。

第五章、終劇。



第四章。

【洋館 一階大廊下】

「ギィ・・・」
ドアが軋んだ。
そしてゆっくりと開く。
その音は気味悪く、耳に残る。
俺はドアノブを握りながら、廊下らしき通路を見渡す。
広い。
横並びに人が並んで歩いても、多分5人分ぐらいは余裕がある。
ドアの向かい側には絵画が飾ってあった。
有名な物から、名も知らぬ物まで。
本当は溜息が出る程素晴らしいんだろうが、この暗がりだ。
それはただ、恐怖の対象にしかならない。
俺は、左右を見る。
どちらが正しいのか・・・。
『正しい』・・・正解なんてあるのか?
が、俺は一度抱いてしまった妄想を掻き消す事はできなかった。
「脱出」というあるかも分からない、儚い妄想を。
(読者の皆様、これから2ルート発生します。御好きな方をお読み下さい。)


(右を選んだ方)
右・・・。
俺は右利き。
だから、右、というのも不安だが、勘に頼る事にした。
誰を頼る事もできない。
この状況下、自分を信じないと狂いそうになる。
ただ、切欠だ。
この状況を打破する切欠が欲しいのだ。
それだけの為に、自分の勘を頼る。
愚か・・・そう言われても構わない。
もう「脱出」という、夢を見てしまった。
藁にもすがらないと最早俺は壊れてしまいそうだったのだ。
痛くなる程、握り締めていたドアノブを離し、俺は暗がりの廊下へと身を溶け込ませていった。


(左を選んだ方)
世の中には「左の法則」という物がある。
これは、人は「右か、左か」という選択を迫られた時、無意識に右を選んでしまう、という法則である。
俺は、無知ながらもそれを知っていた。
RPGでもあるまいし、右に罠がある訳でも無いだろう。
しかし、理性を失ったら終わりだ。
俺はどこかでそう思っていたから。
だからこそ、この知識を試そうと思ったのだ。
俺は、左側を見つめる。
ドアノブの冷たさと、俺の手の汗の冷たさが混じる。
「・・・良し。」
俺は自然と息を殺しつつ、その廊下の先へと向かった。

第四章、終劇。


第三章。

俺は頭を抱え、壁にもたれ座り込んでいた。
壁は冷たく、頭に血が上った俺にとっては心地が良い。
少し頭が冷えてきた。
状況を整理するには、今の状態はもってこいだろう。
冷静に考える。

『ここはどこか。』
俺の記憶が正しければ、ここは「夢」で見た世界だ。
そして、「来た事が無い」洋館だ。

『何故ここにいるか。』
分からない。
目を覚ますと、ここにいた。
「誰か」が俺を此処に運んだのか?
有り得ない。
・・・「有り得ない」?
何故そう言い切れる?

『あのマネキンは?』
悪戯・・・?
わざわざ・・・?
間違い無くあれは血だ・・・。
鉄臭く・・・赤黒い・・・人間の血・・・。

ふと、時計を見る。
正午。
「・・・え?」
確かさっきも「正午」だった。
そして。
さっき俺は「満月」を見ていたはずだ。
「何なんだ・・・?これは・・・?」
時間も、物も、場所さえも狂ってる。
俺には、ここは到底「この世」とは思えない。
途端、全身に戦慄が走る。
"ここは俺の知らない世界ではないか?"
今まで打ち消して来た選択肢が、ハッキリと見え出したのだ。

「・・・畜生!!!」
俺は何のアテも無く、部屋を荒らす。
何か、ある。
そう、信じて。
その過程で「ドア」に目が留まる。
"他にも人が・・・居るのかも知れない"
僅かながらも、頭を過ぎった可能性。
俺はそれに縋り付く事にした。
ドアへと歩き。
ゆっくりとドアノブを回し。
軋むドアと床。

今、舞台の幕は上げられた。

第三章、終劇。
プロフィール

Author:紅
I can't control myself...

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